iPhoneがAndroidの成功を後押している理由

10月4日にauからシャープ製のAndroid搭載スマートフォンIS03が発表された。
ITmediaの記事によれば、IS03は、スマートフォンとして初めておサイフケータイ機能を搭載したほか、ワンセグ視聴機能を内臓し、ディスプレイ下部に、メインディスプレイがオフの状態でも時間やバッテリー残量を表示できる「メモリ液晶」を装備しているようだ。さらに、日本市場では必須ともいえるストラップ穴も装備しているとの情報もある。

auが打ち出した「1台持ちのスマートフォン」というコンセプトは、ある意味、日本人が長らく待ちわびていたものかもしれない。まだ、現物を触ってみないと何ともいえないが、デザイン性という点からいっても、iPhoneキラーになる可能性を秘めた製品になっているような予感がする。

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勢いづいてきたAndroid陣営

auだけでなく、ソフトバンクも27日、HTC Desireの後継機HTC Desire HDを11月に投入すると発表した。HTC Desireを4月に投入して約半年で新製品ということになる。

さらに、ドコモからも今秋、サムスン製のAndroid搭載スマートフォンGalaxy Sが発表される予定になっている。HTC製のHT-03A、ソニーエリクソンのXperiaに続く、3機種目のAndroidということになる。

このように、ここに来て、キャリアも携帯メーカーも積極的にAndroidを搭載スマートフォンを日本市場に投入し始めた。

そもそもAndroidとは、スマートフォン向けのOSというべきもので、パソコンにおけるWindowsに該当する。ただ、Windowsとは違い、AndroidのカーネルやライブラリはLinuxがベースとなっており、無償で提供されるだけでなく、改変も自由なのだ。

今から考えてみると、Googleが打ち上げたAndroid構想は、誰から見ても非の打ち所の無い素晴らしい挑戦だったが、発表当初は、「スマートフォン向けのOSなんて本当に上手くいくのか」という声の方が多かったように思う。

上手く行かないだろうという理由のひとつとして、ハードウエアの仕様が統一されたパソコンとは違い、携帯の仕様はメーカーでバラバラだという指摘があった。

実は私も、目論見どおりに行かないだろうという意見に賛成だった。Linuxファンとして、Androidには頑張ってほしいと思いながらも、現実はかなり厳しいと思っていた。

携帯メーカーの立場からいうと、他社の携帯と差別化を図りたいと望むのは当然で、そうなると各社バラバラの要求に応じなくてはならなくなり、OSとしての統一性は取りづらくなる。反対に、Google側が仕様を統一しようとすれば、反発を買って、Androidを採用する携帯メーカーが少なくなるだろうと予想していたのだ。

ところが、どうもiPhoneの成功が決定的になった後から、風向きが大きく変わり始めたような気がする。

スマートフォンのデファクトスタンダードiPhone

Appleの創業者のひとりであるスティーブジョブズが、スタンフォード大学の卒業式のスピーチで、「WindowsはMacをコピーした」と言い放ったことがある。ここでいう「コピー」とは、美しいタイポライティングつまりアウトライン形式のフォントを指しているのだが、本当はフォントだけでなく、ユーザーインターフェースそのものをコピーしたと言いたかっただろう。ただ、Macのユーザーインターフェースは、ゼロックスのアロパルト研究所の試作機からヒントを得たというのは、周知の事実だ。

しかしながら、もしも近い将来、スティーブジョブズが「AndroidはiPhoneをコピーした」と叫んだとしたら、これはある意味当たっているかもしれない。もっと正確に言えば、「iPhoneがその後のスマートフォンのインターフェイスのあり方を決定してしまった」とも言えるのだ。

iPhoneは、今やスマートフォンのデファクトスタンダードになりつつある。Microsoftにもスマートフォン向けOSであるWindows Mobileがあるが、最近は影が薄くなってしまった。もちろん、Microsoftもこのまま黙っているわけはなく、近々Windows Phone 7を発表して巻き返しを図るつもりのようだが、それでも今のところは、Appleがパソコンでの仇をスマートフォンで打ったという結果になっている。

ただし、今回のスマートフォン市場での戦いは、Apple対Microsoftの一騎打ちでは終わらなかった。ここに、もうひとりの主役Googleがいたのだ。

戦わずして勝っているAndroid

GoogleがAndroidを世に送り出したのは、Appleからシェアを奪うことでも、Microsoftをスマートフォン市場から追い出すことではなかった。

実際、AppleやMicrosoftとは違い、Android搭載スマートフォンがいくら売れても、Googleの懐には一銭(厳密には1セント)も入ってこないのだ。ところが、スマートフォン市場が活性化されて、パソコンと同等のインターネットアクセスが実現すれば、Googleは本業の広告収入という形で利益を手にすることができる。だから、シェアよりも、市場そのものにインパクトを与えることのほうが重要だったのだ。

こうしたGoogleの戦略を知ってか知らずか、スマートフォン市場に最大のインパクトを与えて、その方向性を決定付けたのは、Androidではなくて、AppleのiPhoneだった。

魔法のようなインターフェイスで、世界中のガジェットファンを熱狂させたiPhoneは、今やスマートフォンのデファクトスタンダートになり始めていると過言ではないだろう。iPhoneの成功によって、Androidは、当初懸念されたような「携帯メーカーからのバラバラの要求によって空中分解するかもしれない」という心配がなくなった。

携帯メーカーにとって、今やAndroidは、iPhoneによって活性化されたスマートフォン市場に参入するための最短距離を提供してくれる重要な役割を果たし始めている。

これは、かつてのIBMがパソコン市場への参入の出遅れを取り戻すため、基本仕様だけを決めて、部品だけでなくOSまでを外部調達したという状況と似通っている。今日のパソコン市場は、IBMのこの英断によって成立したと言っても過言ではないが、同時に、CPUを提供したIntelやOSを提供したMicrosoftが絶大な力を与えることになった。

こうやって考えて行くと、今後のスマートフォン市場でAndroidが多大な影響力を持つようになる可能性は高い。しかも、PCメーカーからライセンス料を取っていたMicrosoftとは違い、GoogleはAndroidを携帯メーカーに無償で提供しているのだから、その影響力は計り知れない。

というわけで、iPhoneの成功により、Androidに追い風が吹き始めたことは間違いがないようだ。それに、今の展開は、かつてのMac対Windowsの構図にも似通ってきた。歴史は繰り返すのかという点でも、これからのAndroid搭載スマートフォンの動向からはますます目が離せなくなりそうだ。

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